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伊藤整の『氾濫』のあらすじを教えてください。おねがいします。

A 回答 (3件)

(承前)


一介の研究者であったころはつましい生活をしていた真田佐平も、社会的地位が上がったために、立派な家を買います。ところがそれはかつて自分が夢見たような生活ではなく、あらたな義務としがらみがついてまわることに気づかされます。

妻の文子は女中を置くようになるとともに、若返り華やかになっていき、一人娘のたか子は自宅でパーティなど開くようになり、真田は自宅に自分の居場所を見出すことができない。

そうした中、何回か幸子と逢瀬を重ねるうちに、とうとう彼女と関係を持ってしまいます。当初、連れていた子どもは真田の子であると言っていたのですが、性交渉の結果、彼女の身体は子どもを産んだことのない女性のものだったことから、幸子の嘘はあきらかになります。

幸子が自分に近付いてきたのは、庇護を求めようという打算からだったことを理解しつつも、真田は関係を続けますが、生来的に倫理的な性質であった幸子は、やがてそうした関係に苦痛を感じるようになり、真田の前から身をひきます。

真田は研究の面でも過渡期を迎えます。彼が取り組む防錆材の研究はドイツの企業の特許に抵触するものであり、会社は真田を抜かしたところでその企業との共同開発をすすめようとします。

そうした真田に大学院で教鞭を執るよう、久我象吉は話を持ちかけます。
放恣な生活を続ける久我は、借金で生活が破綻しかかっています。久我の恩師の研究を、真田の会社に買わせること、自分が仲介料として、いくばくかの金を得ることと引き替えに、アカデミズムでのポストを渡そうと考えていたのですが、真田の評価は学界全体で確かなものとなっていたため、久我の計画は頓挫します。

経済的にも、また妻との関係も行き詰まる久我ですが、久我の行状は改まりません。
現在の愛人となんとか金を使わず、醜聞にもならず別れ、新しい女性と関係を持とうとあれこれ画策し、その女性と密会をしようとした先で、真田の妻文子が、若い男性(娘のたか子のピアノ教師)と一緒にいるのを目撃してしまいます。

真田も妻の不倫に早い段階から気づいていました。怒りや思い惑う気持ちもあったのですが、自分の幸子との経験から、むしろ妻を許し、いたわるような境地になります。

ちょうどそのころ種村恭助の従姉妹、京子が真田の下を訪れます。
京子は、自分が身体を許した恭助が、たか子とも関係を持っていることを知り、なんとしてもふたりの間を裂こうと、真田にさまざまなことを打ち明けます。
一方、その話を聞いた真田は、逆に、娘を傷物にしないために、たか子と種村をなんとしても一緒にしなくては、と考えます。自分の娘婿にふさわしいものにしようと、種村に箔を付ける算段を始めるのです。

種村にとって真田の地位はあこがれであり、夢でした。なんとかそこに這い上る手段として、たか子を考え、最初は慎重に関係を進めていたのですが、衝動を抑えきれず、強引に関係を持ってしまいます。
ところがいったん関係を持ったたか子は、逆に種村に激しく執着するようになったのです。
力関係が逆転した種村は、むしろふたりの関係を冷静に見るようになります。結婚を迫るようになったたか子を切り札に、真田に対して、真田の側から京子に圧力をかけて諦めさせてくれるよう要求します。

真田の会社は、ドイツとの共同開発を白紙に戻し、もう一度、サンダイト中心に展開するよう、方針を転換し、真田の会社での地位も、ふたたび安定したものに戻ります。

最後の場面は、種村とたか子の結婚式です。
久我は、すっかり飽きていたかつての愛人と、なんとか切れることができ、新しい愛人を首尾良く手に入れることができたけれど、公の場に連れ出した妻の保子が陰気な顔をしているのにやりきれなさを覚えています。
真田は、諦めさせた京子が、結婚式に列席しているので、気が気ではありません。
妻の文子は、三ヶ月前に関係を終わらせたピアノ教師が結婚式に参列しているので、気もそぞろです。
種村は、かつて夢見た地位を自分が手にし、以前は傲慢で気高かったはずのたか子が、つまらない女に見えてきています。

華やかな場面の裏で、それぞれに醜いエゴイズムを抱え、偽りの笑みを浮かべている人々の心理を、伊藤整は仮借なく描いていくのです。

………
この作品は、筋だけ追うと、このようにほんとうに救いがたいものなのですが、やはりざっと読み返してみると、あらためて、心理小説としての完成度の高さに驚かされます。

一例をあげれば映画館の暗闇の中で、まだ恋愛になる前の種村とたか子が並んで映画を見るシーンがあります。
表面的には肘が腕にふれたのち、指でその腕を撫でる、というだけの動作なのですが、伊藤は、意識の流れの手法を用いて、それぞれの相手に対する思い、心のさぐり合い、心理的な駆け引きを、実に細緻に描いていきます。

1958年刊行のベストセラーですから、おそらく図書館に行けばあると思います。全集などにも収録されているかと思いますので、ぜひ一度お読みになることをおすすめします。
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この回答へのお礼

ありがとうございました。とても助かりました。あらすじを読んでとても興味がわきました。ぜひ読みたいと思います。

お礼日時:2004/02/05 08:45

#1さんが紹介された参考URLで紹介されたあらすじを読んでみましたが、映画とは最後の部分がかなり違っているようです。



あらすじの質問は、どこまで書いて良いかよくわからないので、たいてい見送ることにしているのですが、ちょっと書いてみたくなったので、ご紹介します。

戦後十年ほどたった、復興めざましい時期の日本が舞台背景です。

主要な登場人物の一人は、真田佐平という四十九歳の男性です。
企業の研究者として、接着剤の研究を続けていたのですが、彼の発表した軽金属の接着剤に関する論文が非常に画期的なもので、それを実用化した接着剤サンダイトは爆発的に売れます。その結果、企業の一研究者であった真田は、企業の取締役となり、同時に学界でも重要な地位を得ることになります。
彼には十一年前に恋愛関係にあった幸子という女性がいました(戦争中で、真田の妻子は田舎に疎開して不在だった)。彼女が新聞で真田の成功を知り、たずねてきます。結婚したが、夫に死に別れた、と。男の子を連れていて、真田は自分の子ではないか、という疑念を抱きます。

もう一人の主要人物、久我象吉は真田佐平の大学時代からの友人です。裕福な家に育ち、真田が卒業後、企業に就職したのに対して、久我は大学に残り、やがて教授になります。戦後、彼の受け継いだ資産は価値をなくし、従来のような裕福な生活はできなくなってるけれど、学界においては依然として第一人者で、歴然たる権力を持っています。妻の保子との関係は、緊迫したものとなる一方、婚外で女性を渉猟することをやめません。

さらに、種村恭助という人物がいます。三十一歳の種村は、真田や久我のような一流大学ではなく、傍系の私大の研究室に在籍する研究者ですが、非常に能力がある、と、直接の師を飛び越して、久我に見出されます。種村はなんとか研究者として注目されたい、世に入れられたい、と願いながら日々を送っているうち、従姉妹の京子と関係を持ちます。また、久我を通じて真田に紹介される一方、京子を通じて真田の一人娘たか子とも知り合い、そのうちたか子と恋愛関係を持つようになります。

こうした人物を軸に物語は展開していくのですが、ここで質問者さんがお聞きになられた意図をおうかがいしてもよろしいでしょうか。
もし作品に興味がおありでしたら、この続きはぜひお読みになってください。
あるいは何かの事情で以下の展開がどうしてもお知りになりたいのでしたら、補足なさってください。続きはまた書きます。
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この回答へのお礼

解答ありがとうございました。
私が質問した理由ですが、伊藤整について調べています。そこで氾濫という作品を読みたいと思ったのですが私の学校の図書館には見当たらなく、また買うには高い値段であったので困っていました。もしよければ、これ以降の展開も教えていただけると助かります。よろしくお願いします。

お礼日時:2004/02/04 10:31

同小説を原作とした映画のあらすじであれば下記に載っています。


http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD26237/comme …

参考URL:http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD26237/comme …
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