
No.2ベストアンサー
- 回答日時:
伊藤整の場合、一貫した問題意識としてあったのが、芸術の本質ということです。
人間の欲求というものがまずあって、宗教だの法律だの道徳だの科学だのというものは、この人間の欲求にたがをはめ込もうとするものである。そういうものに圧迫されるなか、本来の人間本来の欲求を取り戻そうとするものが芸術である、と彼は考えていた。そうした意味で、文学者の使命というものに、非常に自覚的でした。
彼の「私小説批判」は、たとえば、ヨーロッパの近代小説を規準にして私小説の欠陥を指摘した中村光夫(『風俗小説論』など)とは違って、そうした芸術論の一環として読む必要があると思います。
つまり、中村のアプローチが、対象を比較しつつ検討するという科学的なものであるのに対し、伊藤の場合、同じ作家としての内部からの批判であったわけです。
そのうえで、伊藤の『小説の方法』を読んでみると、彼の批判が私小説を読み込んだうえで、構造を分析し、分類したものであることがわかります。
しかも、単に批判していたのではなく、私小説を、人間観察の質を高めたものである、という点では評価しているのです。
以上を考えると、伊藤の論点は、このままではやがて私小説は行き詰まる。それを批判的に継承するにはどうしていくか、というものであったと思います。
私小説の典型とされる葛西善蔵の『子をつれて』はお読みになったことがありますか(これはホラー小説か?と思いながら、辛抱しつつ読んだ経験があります。パターンがゾンビ映画と一緒じゃんw。あ、これはまったくの余談です。失礼しました)。
この作品が当時評価されたのは
1.作者が実体験を誠実に告白している
2.生活打算を排し、芸術活動に精進している
という二点でした。
伊藤が批判したのは、作者=語り手は、大学で高等教育を受け、本来なら知識人として社会活動に貢献していくべき存在なのに、仏教で言う「世捨て人」に倣って、社会から逃避している、という点です。こうした当時の文学者を伊藤は「逃亡奴隷」と呼びます。
実際に『得能五郎の生活と意見』(カッコいいタイトルですね)で、伊藤はこうした私小説の欠陥を指摘しようとします。
いま読めば、これは一種のメタ小説なんですが、作品には、桜谷多助という私小説作家が登場し、桜谷多助に私小説まで書かせている。一方、自らをモデルにした得能五郎は、桜谷多助の小説に違和感を感じ、ラジオを聞き、新聞を読み、大学でヨーロッパ文学と日本文学の比較を講義し、近所の人々と立ち話をしながら、近付いてくる戦争の足音を感じとっているんです。
これはもちろん、ジョイスの『ユリシーズ』に倣っているわけですが、ジョイスの手法を導入しながら、「社会に生きる知識人の役割」を描いていったのです。
返事が遅くなってすみません。
度々お答えいただいて本当にありがとうございました。
伊藤整は、ただ私小説というものを一方的に批判したわけじゃなくて、良いところは評価し、作家として私小説の中身を知った上でその行き詰まりを指摘したんですね。
非常に丁寧な説明により、満足に理解することができました。
このたびは、本当にお世話になりました。
No.1
- 回答日時:
マルクス主義をどう定義づけるか、というのは、それ自身で論文がいくつも書けるような問題なのですが、ここでは日本の文学史の文脈に限定して考えていきたいと思います。
日本の文学史の中で、私小説がどれほど大きな位置を占めているかは、質問者さんもよくご存知のことと思います。
本来はありのままの人生を事実に忠実に描写する、という自然主義の理論から導き出された、あからさまな自己表出の方法は、大正期には、ほとんどの文学者を呑み込んで、発展していきます。
そうした中、大正末期から昭和初期にかけて、伝統的な私小説を否定しようとする動きが生まれます。
それが新感覚派とプロレタリア文学です。
私小説にあっては、語り手=主人公=作者であり、描かれる内容も、その人物が見、聞き、体験したことに限られます。
そのような作品には、必然的に社会性はすっぽりと抜け落ちることになってしまいます。
プロレタリア文学は、そうした私小説の社会性の欠如を批判し、マルクス主義思想に立脚して、文学の社会性を復権させようとしたのです。
従来から社会の暗黒面を描いた小説はあったけれど
(もし関心があれば、広津柳浪に関する質問に対する回答を見てみてください)
http://oshiete1.goo.ne.jp/kotaeru.php3?q=676191
こうした文学とプロレタリア文学が一線を画すのは、虐げられた貧困者、社会的弱者を解放するためには、体制を変革しなければならない、ロシアのように、マルクス主義革命を起こさなければならない、と考えていた点にあります。
言い換えれば、プロレタリア文学の担い手たちは、文学は革命を起こすために民衆を啓蒙する手段と考えていたわけです。
こうしたプロレタリア文学は、昭和期に入って、厳しい思想弾圧を受け、小林多喜二のように獄死したり、徳永直のように転向文学に転じていったりして、1930年代半ばには消滅していきます。
どうしてマルクス主義文学のことを、日本文学史上では「プロレタリア文学」と呼ぶかというと、当時の検閲のために、「革命」という語句が使えなかったために、「プロレタリア(労働者階級)」という言葉を使ったからです。
非常に大雑把に1920年から十年ほどをさらっていきましたが、わかりにくいところがあれば、補足要求お願いします。
さっそくの回答ありがとうございます。
とても分かりやすい説明で、本当にありがたく思っています。
日本の文学史の中で、マルクス主義文学というのはイコールプロレタリア文学のことで、それは私小説には批判的な文学ってことですよね?
とてもよく分かりました。
実はそれはよく理解できたんですが、もう一つ疑問に思ったことがあります。
少し話がずれてしまうのですが、今私は伊藤整の私小説論を読んでいます。
そこで思ったことなんですが、伊等整って多くの自伝的小説を書いているんですが、実際には私小説には批判的だったという文章を読みました。
では、彼はどのような思想を持っていたのかすごく疑問に思っています。
もし、お分かりであれば、申し訳ありませんが、教えていただけませんか。
押し付けがましくてすみません(汗)
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