No.5ベストアンサー
- 回答日時:
既に細かな回答が出ていますので、補助的に私は別の角度から書かせてもらいます。
>諸行無常
仏教の根本義に「因縁」と「三法印」(諸行無常、諸法無我、涅槃寂静)というものがあります。仏教を仏教たらしめる核になる教えで、「諸行無常」はその中のひとつです。
三法印の解釈を細かく言えばきりがありませんが、大雑把に原始仏教の解釈では以下のようになります。
諸行無常(全ての命は死に向かう。この私も例外ではない)
諸法無我(この私には心にも肉体にも確かなものはない)
涅槃寂静(それらへの執着を離れたところに安らぎがある)
この3つを通読すればわかるように、三法印とは、「この私」について説く実際的な教えです。本来、時間的にも空間的にも永続確固なものは何もないのにもかかわらず、私たちはついつい「私」というものを実体視して執着を起こし、苦しみを自ら生み出してしまっているのであって、その執着を離れることが安楽の道である、という現実的な教えなのです。
従って「諸行無常」という言葉は、もともとは生命あるものについて「老、病、死」を免れ得ない厳しい現実を見つめた言葉でした。やがて意味が拡大し、大乗仏教になると「一切の現象・存在に常住不変のものはない。全ては刹那ごとに変化してやまないものである」という風に、現象、存在一般の性質を表す言葉になり、しかも否定的なニュアンスが消えることになりました。
日本人は平家物語などの連想もあって、「諸行無常」を散りゆく姿のはかなさになぞらえることが多いのですが、大乗思想では必ずしもそうではなくて、生・死、成・壊といった「変化」をありのままに見ようとするものです。
ちょっと余談になりますが、「諸行無常」の言葉が一般に知られているのは大般涅槃経の中にあるおかげ、とも言えます。お釈迦さんの前世の姿である雪山童子が命と引き換えに羅刹(食人鬼)から、この言葉で始まる無常偈を教わるという話がよく知られています(巻の14、聖行品7の4)。
また涅槃経のこの章の冒頭では、「我、諸行は悉く無常なりと観ず。云何が知るや。因縁を以ての故なり。若し諸法の縁より生ずるあれば、即ち無常なりと知る」とあって、ここでもはっきりと「一切は縁によって生まれるもので(また縁によって壊れるので)無常である」という認識が示されています。
>色即是空
「空」は、先の「無我」が発展してできた思想です。
「無我」についてのお釈迦さんの体系的な教義はありませんんが、たとえば以下のような言葉がそれにあたります。
「いかなる事物も自己性をもたない」(法句経)
「『私には子供がいる、私には財産がある』といって愚か者は心を砕く。自分に自分すらないのだ、どうして子供があるだろう。どうして財産があるだろう」
「自我に執する見解を捨て、モッガラージャよ、世界を空と見なさい、そうすればそなたは死を超える」(スッタニパータ)
このように、執着の対象としての「永遠不滅の自己」を排除することがもともとの仏教の考え方でした。
やがてその対象が大乗の成立とともに「諸法(=一切の要素的存在)」全てに拡大されるようになり、我だけでなくて、我を含めた一切の事物の絶対性を否定するために「空」という言葉が使われるようになりました。
(「無我」という言葉は「我」を否定できても「法」は存在する、という誤解を生みやすかったのですが、「空」は全てを相対化できるので、都合が良かったのです。)
この意味で、「諸法無我」と「色即是空」は、教義としての実質的相違はほとんどありません。どちらも共に、「一切の現象や存在は常住不変の性を持たないもので、ただ関係性のなかにのみ存在する」ということを説くものです。
また従って、吉凶といった価値判断とは関係のない言葉です。むしろそのような価値を判ずる主体としての私も「空」なので、そういう判断そのものを成立させないことになるでしょう。
ただ、「色即是空」というと、観念的な理解のし方、単なるものの見方と思われがちです。しかし般若心経ではその言葉に続けて直ちに「空則是色」と切り返してあることが重要です。2つの句を合わせて、「一切は空であるけれども、私たちは空である現実を離れて生きることはできない。空たる現実を知ることでとらわれなくこの現実を生きよ」と説くのです。
また、自性の否定が価値の否定のように受けとめられて、「自性がないのなら、行為も修行も無意味で、仏教の理想とするところも無意味なのか」、と思われがちですが、やはり般若心経の最後では、むしろ空であるがゆえに修行が可能なのであり、意味を持つのだ、という風に肯定的にまとめていることをよく受けとめる必要があると思います。
「諸行無常」も「色即是空」も、単なるものの見方なのではなくて、生に向かい合う姿勢に結びつくものであるはずなのです。
(ちょっと脱線で恐縮ですが、#4のお答えの中で、「synya」「synyata」とあるのは、それぞれ「sunya」「sunyata」〔発音符は除く〕の誤りでしょう。例えば般若心経の“色即是空”は、梵文では“yad rupam sa sunyata”です。
それから、「シューニャ」が「何もない」という原義なのはその通りですが、現実の用例としては瑜伽論をはじめ多くの仏典でいわゆる「空」の意味で使われています。指摘は失礼にあたるのかもしれませんが、事実関係の確認以外に他意はありません)
ご丁寧な回答をありがとうございました。
空=無という風に連想しがちですが、むしろ空は無我という言葉のほうに近いということでしょうか。
色即是空・空即是色、これを単独でなくてひとまとまりのものとして理解していかないといけないのでしょうね。
No.4
- 回答日時:
「色即是空」とは大乗思想の代表的な「般若思想」のなかのエッセンスを表現した言葉です。「空の思想、縁起の思想」とも言えます。
『般若心経』の最初のあたりに出てきますが、この短いお経は、膨大な般若教典のエッセンスを短くまとめたお経とされます。
「般若」という言葉は、「叡智・智慧」を意味する、「プラジュニャー」(パーリー語で「パンニャ」)の漢字音写です。「プラジュニャーの智慧」と言って、真の悟りに達するために必要な、崇高な智慧とされます。
「色即是空」は、意味を訳していて、「空」は「シューニャタ(空性) synyata」が原語で、「色」は「ルーパ rupa」が原語です。
「色」とは、「五蘊」のなかの一つで、また「五蘊」を代表して使われています。「五蘊」は、世界を構成する五つの要素で、この要素は、物質だけでなく、心や意識も含んでいますので、物質と精神・意識・心というような二分法ではありません。
「色(五蘊)」は代表的には、「物質現象」であり「意識現象」でもあり、両方にまたがっています。「空」とは、「何もない」という意味ですが、それは「シューニャ synya」と言います。ここの「空」は「シューニャタ」で、「空性」と訳すのが普通です。
「色即是空」とは、「現象とは、実体のないものである」という意味です。
これと対語になっているのが、
「空即是色」ですが、これは「空はすなわち現象である」という意味ではありません。「実体がないということが、すなわち現象ということである」。
現象は互いに縁起で結ばれていて、縁起において、何かの現象は現象である。それ故、ある現象を取ってみても、それは実体がないのである。しかし、この縁起=関係性のなかで、現象は存在し、現象している、という風な意味になります。
「実体がない」とはどういうことかというと、仏教用語で「自性がない」ということです。「実体」という西欧哲学の用語です。「自性」というのは、それ単独で存在している性質のことで、自性のあるものは、単独で存在し得、他のものとの関係なく、それ自身でありえるのです。
しかし、現象一切は実体がない、すなわち、自性がないのですから、現象は、単独では現象していない。必ず他の現象との関係のなかで存在し、現象しているという意味になって、「縁起の思想」に繋がるのです。
わたしの自我とか、あなたの自我とか、独立に、それ自身である訳ではなく、あなたの自我があればこそ、その関係で、わたしの自我はあり、その逆も言えるということです。
キリスト教や西欧の思想のなかの「個人の霊魂」は、神がその個人に対し創造した「実体」ですが、大乗思想の「自我」は、こういうキリスト教の霊魂のような実体ではないのです。
あらゆる現象が、みな、こういう意味で、自性がなく、それ単独で存在する実体ではなく、すべて関係性において現象しているという意味です。
「諸行無常」は、「雪山偈」に出てくるもので、「いろは歌」は、この「雪山偈」の日本語による翻訳にもなっています。「諸行無常」に対応するのは、「色は匂へど散りぬるを」です。
(「雪山偈」は、「雪山」がヒマラヤ山のことで、「偈(げ)」とは、ガーターの音訳です。ガーターとは、韻文で書かれた詩のことです。雪山童子というヒマラヤの行者が、釈迦の前世の人に、このガーターを教えるという話があります。「雪山 ヒマラヤ いろは ガーター」などで、質問検索すると、簡単な説明のある質疑が出てくるはずです)。
「諸行」とは、行為のことではなく、これも「現象一般」のことです。現象一般は、様々な原因と結果の絡み、因果で、いま一瞬、私たちが認識できるように姿を現している。しかし、その現れは、たまたまのいまの偶然であり、因果である。
次の瞬間には、別の因果の関係のなかで、現象は姿を変えてしまう。こうして現象の世界は、一瞬たりとも同じ姿に留まらず、変化してやまない。つまり「無常」であるということです。
「一切の現象は、たまたまのこの機縁における現れで、恒常性なく、変化してやまない」。これは、物体も、植物・動物も、人間も、社会も、それらの相互関係もそうで、変化しないこと・現象、一定に留まる現象はない、ということです。
「色(ルーパ)」が、相互の関係性のなかで現象し存在したことと、合わせれば、或る場合の色は、無常であるが故に、次の瞬間には空となり、この空(関係性)を通じて、また新しい色が現象し、現象の不断の変化、流れ行く定めが、色即是空の教えだともなります。
この回答への補足
回答を拝見していてふと感じたことです。
サンスクリット語とパーリ語は似ていると何かの本にも書いてありましたが、プラジュナー⇔パンニャでは結構違いがありますよね。この違いには何か意味があるんでしょうか?(単なる雑感ですいませんが・・・)
時間をかけたご丁寧な回答をいただき、ありがとうございます。
少しずつ仏教を勉強していますが、何かもう少しピンとこない感じがあって、一進一退をくり返しているような状態です。わかったようなつもりでいても、すぐに?になってしまうのはやっぱり肝心なところが体に染みついてないんでしょうね…。
またどうぞよろしくお願いします。
No.3
- 回答日時:
哲学的な見方とか、物理的な見方とか、色々できますが、もっとも単純な解としては・・・
色即是空=「E=mc2」
物質(色)はエネルギー(空)であり(色即是空)、
またエネルギーは物質である(空即是色)
諸行無常=エントロピーの法則
って感じでしょうか。
確かに物質はエネルギーですよね。エネルギーはどんな形にもなるし不変だけれど実体はないものですから、色即是空にぴったり合いますね。
無常でものが変わっていく姿も、確かにエントロピーの増大、ということが言えますよね…。なるほど。
とても興味深い解釈をありがとうございました。
No.2
- 回答日時:
色(しき)というのは物質的存在のことみたいですね。
(辞書引いてみました。)
空(くう)は実体がないと言うことをあらわしているようですね。
色とは是、即ち空である。
諸行無常は、
諸々の、行状は、常では、無い。
あわせて、
「世の中のすべての事柄は一定ではなくて、
物というのは
(確固たる用に見えて実際には移ろいやすくて)
実体なんて無いようなものですね。」
という風に解釈できるのではないでしょうか?
ただ、サンスクリット語の読みに当て字を当てている、
場合もあるので、
その場合にはちょっと意味がわからなくなりますけど。
ご回答いただいてどうもありがとうございました。
普通の辞書に仏教語の解釈があるとは思わなかったので、調べもしなかったのですが・・・。お世話になりました。
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